バンコクの「奇怪」展覧会の「タープラチャン市場」通称お守り市場
タイのお守り「プラクルアン」がほしければここへ
大量のお守りが並べられた市場
ゴルフ人気の強いバンコクだが、それ以外の目的としての観光に「奇怪」や「不可思議」を求めている人もいるのではないだろうか。今でこそタイは「普通」の国のようになってきたが、20年くらい前は怪しい話がそこかしこにあった。心霊の話、呪術師の事件、言葉では説明できない出来事が起こり、人々に語られた。
そんな話に興味がある人にぜひ足を運んでもらいたいのが、チャオプラヤ河沿いの市場「タープラチャン市場」だ。
タイ上座部仏教最高峰の寺院「ワット・プラケオ(エメラルド寺院)」に近く、最近は洒落た商業施設ができたので、新しくきれいな飲食店もある。
ここがなぜ「奇怪」を求める人に向いているのかというと、タープラチャン市場は別名を「お守り市場」というからだ。タイ最大のお守りの市場で、上座部仏教の信者が首から提げるお守りなどが売っている。
この市場にはプラクルアンだけでなく仏像などもある
タイではこのお守りを「プラクルアン」と呼ぶ。
プラクルアンは、6~11世紀に存在したとされるドヴァーラヴァティー王国の人々が持っていた「プラピム」と呼ばれる仏教の世界を表した幾何学模様を描いた布が原型とされる。これが発展し、アユタヤ王朝を経て1800年代に今のバンコクの地域に都が移されたころに粘土や石などで作られるようになった。そしてプラクルアンと呼ばれるようになった。
プラクルアンはいつ、誰(僧侶)が、なんの目的で作ったかによってご利益が違う。また、高僧が少量しか作っていなかった場合、歴史的価値からかなり高額になる。日本円で数千万円はするほどだ。
ただ、残念ながらこのお守り市場のプラクルアンはそこまで歴史的価値が高いものは置いていない。店頭に並ぶ前にコレクターに渡るためだ。そもそも、タイでは歴史的価値がある仏教に関係した物品は、たとえプラクルアンでも国外に許可なく持ち出せないので、我々外国人には買うことは難しい。
ご利益は特に気にしなくていい
お守りの店舗と野菜売りが一緒に並ぶ
お守り市場は一見わかりにくい場所にある。タマサート大学とエメラルド寺院の近くの交差点を結ぶ通り沿いは、普通のタイの商店が並ぶだけだからだ。その商店の前を歩いていると、いくつか建物の間をトンネルのように路地が貫いている。バイクも通れないような狭い路地だが、そこを入ると裏側にお守り市場が広がっている。
この建物の下にある路地を入っていく
ここには大量のプラクルアンと、家に置くための大きな仏像、それから呪術師が使う道具がある。
プラクルアンは安いもので20バーツ(約70円)前後からある。タイも日本のようにお守りは買う・売るではなく、借りる・貸すと言う。近年のお守りは量産型で、金属製が多い。誰でも作れるものではなく、毎年、あるいは数年に一度、寺院などでプラクルアンを作り、それを貸す。その際には住職がプラクルアンひとつひとつに念を込めている。
仏像のプラクルアンは主に総合的に運勢を上げたい人が持つ
この市場の安いプラクルアンは、最初こそ寺院近所の信者に有料、あるいは無料で貸されたが、その後信者たちが手放し、それを集めてこの市場に持ってきたものになる。一度誰かの手に渡ったものが多く、ひとつひとつに乗せられた思いは違う。新品のプラクルアンももちろんある。その場合は数百バーツ以上する。
プラクルアンには様々な形がある。幾何学模様のもの、仏像を象ったもの、文字などいろいろある。どれも前述の通り、誰がなんの目的で作ったのかでご利益が違うが、基本的には「自分の思いによる。なんでもいい」とほとんどの店主が、自分が信じていることがプラクルアンに乗って天に届くと言っていた。
商売上手のおばちゃんもいた
ただ、基本的にタイ人は現実主義なところがあり、どのプラクルアンも最終的には金運に繋がる。権力を持つことができるプラクルアンも結局は金が集まってくることになるし、所有者の魅力が増すご利益も最終的に人が集まり、金も増えるということになってしまう。
つまり、自分が気に入ったものを借りればいいのだ。プラクルアンはほとんどが裸で売っている。近隣に首から提げるためのケースショップがあるので、そこに持ち込んでネックレスにしてもらうことも可能だ。
銀製ブレスレットを売っていた店主も自分でつけていた
あと、お守りだけでなく、指輪などもある。最近は銀製のブレスレットもあって、それがなかなかかっこよかった。値段は安いところでも500バーツ(約1750円)ほど。
呪術関係なら座敷童子の「クマントーン」がいい
ここはお守りというよりも仏像や呪術道具の店だった
先ほど簡単に触れたが、このお守り市場がより怪しげに見える理由のひとつに、売られているものの中に呪術の道具も含まれていることが挙げられる。
タイではプラクルアンの製造方法が確立されるより以前は一般市民はプラピムという布を使い、兵士は身体に直接護符を入れた。「サックヤン」と呼ばれる刺青だ。この護符刺青は1200年代のスコータイ王朝時代に始まったとされる。ただ、これは今のカンボジア人の祖先に当たるとされるコーム族が始めたと言われる。
護符刺青を身体に彫るので、ある種呪術の一種だった。実際、今でもタイには呪術師がいて、時折違法薬物や、呪術道具を自作するために墓を暴いて、死体の一部を持ち出し逮捕されるというニュースがある。こういった呪術師のほとんどが、師匠をカンボジア領内に持つ。
プラクルアンや、その他の形状のお守りもある
つまり、タイの呪術はカンボジア呪術に倣っていて、それらの道具がこのお守り市場に流れてくるようである。そのため、プラクルアンなどタイ的なモチーフの製品がたくさん並ぶ中に、おどろおどろしいドウロなども混じっていたりする。
また、タイに仏教が入ってくる以前は精霊信仰があり、それも今も根強く残っている。その中に「クマントーン」がある。これは日本の座敷童子に似ているのだが、タイではクマントーン=男児の精霊が宿った仏像を家に祀ると、クマントーンが守ってくれ、金運も上がると言われている。
かなり珍しいクマントーンのプラクルアン
クマントーンのクマンは男児、トーンは腹という意味がある。大昔は死んだ妊婦の腹から胎児を取り出し、その死体を仏像にしていたのだ。これはまさに呪術師の仕事で、ここお守り市場にもクマントーンの像がある。
正午になると暑すぎて店も閉まってしまう
稀にクマントーンのプラクルアンもあったりするので、商売繁盛を願う人は、ここでクマントーンのプラクルアンを借りてはいかがだろうか。
ちなみに、このお守り市場は午前中でほとんどの店が閉まってしまう。朝9時前後に行くことをおすすめしたい。
【データ】
名称:タープラチャン市場
時間:午前中
住所:1 Sanam Phra, Phra Borom Maha Ratchawang, Phra Nakhon, Bangkok
地図:Googleマップで確認
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