もうすぐなくなってしまうかもしれない?タイ・バンコクの中華街「ヤワラー」散策のススメ

世界中にある中華街だが、ここタイのそれは中でも特殊な部類に入る。看板に漢字が見られることから中華街となんとなくわかるものの、この地域に暮らす華人たちはタイの文化と深く結びついたため、チャイナタウンといった雰囲気はあまり感じられない。
それでも1800年代の後半に形成され始めたこの地域は、たとえば中国本土や香港の中国人たちが、自国で食べるよりもおいしく、かつ安いからとフカヒレを求めに訪れるなど、見所は少なくない。
間もなくこの地域には地下鉄の延線が開通するため、これまでのような古い町並みは消えてしまうかもしれない。今だからこそ行っておきたいバンコクとは、ここ中華街「ヤワラー」なのである。

中華街「ヤワラー(ヤワラート)」の外れにある「中華街門」
中華街の外れにある「中華街門」。

中華街の雰囲気はなくても、ほかにはない中華街

バンコクの中華街は中心を通る通り名、ヤワラー通りを取って「ヤワラー」(ヤワラート)と呼ばれる。国鉄中央駅「ホアランポーン駅」の西側にある運河から、南はチャオプラヤ河、東はインド人街などに囲まれた地域になる。
この地域は1800年代後半に形成され始めた。かつてバンコクに都が置かれたとき、この地域はバンコクの東の端だったことになる。今でこそ中華系タイ人はタイの経済や政治を牛耳っているが、まだ移民だった1800年代以前から1960年代ごろまで、肉体労働に従事した貧しくつらい時代があった。彼らは中心地ではなく、バンコクの端に追われていたのだ。

バンコクの中華街「ヤワラー(ヤワラート)」。他国の中華街と比べて漢字が少なめ。
他国の中華街と比べて、タイの中華街は漢字が少なく、特徴的な建物もあまり見られない。

しかし、その後この「ヤワラー」は発展し、バンコクがさらに東に広がるまでは、バンコクのニューカルチャーの最先端を担っていた場所になる。タイ政府は中国からの移民を受け入れる代わりに同化政策を進め、マレーシアやシンガポールなどと違い、タイの華人はみなタイ人として生きるようになった。そのため、「ヤワラー」は特殊な文化を持ち、また町並みもタイの旧市街の様相を持ちつつ、中国のテイストも加えたような、不思議な場所になった。

バンコクの中華街「ヤワラー(ヤワラート)」の夜景
夜間になると渋滞も少なくなり、散策しやすくなる。

中華街は博物館から散策を始めよう

まず「ヤワラー」を観光する際のおすすめルートは、国鉄駅あるいは地下鉄駅の「ホアランポーン駅」から西へ西へと進むルートだ。間もなく地下鉄駅の延長工事が終わり、新駅が「ヤワラー」の中にもできるが、「ホアランポーン駅」からもわずか5分程度で中華街ゾーンに入ることができるので、徒歩で散策することを推奨する。

「ヤワラー(ヤワラート)」の寺院「ワット・トライミット」「ヤワラー」の観光の手始めに訪れたい寺院「ワット・トライミット」。

ヤワラー」の東端にあるのは「ワット・トライミット」だ。この寺院にはおよそ5.5トンの純金でできている仏像がある。また、同時にここには「ヤワラー」の歴史を紹介する博物館も併設される。昔の中国移民の生活や、この街ができたときの姿などが垣間見られるので、「ヤワラー」観光のコースの始まりには最適なのだ。

「ワット・トライミット」内の博物館で展示されている当時の華僑の生活
「ワット・トライミット」内の博物館で当時の華僑の生活が見られる。

「変」が見所の中華街はこの辺りへ

「ヤワラー」にはバンコク中心地にはない、不思議なスポットがたくさんある。
たとえば、この街の西側に、日本人から「ドロボウ市場」と呼ばれる「クロントム市場」がある。いわば日曜大工センターのタイ式市場といったところで、昔は実際に盗品が売られていたのだとか。今はそんなことはないが、ヤワラー通りのひとつ北側にあるジャルンクルン通りには昼間から夕方まで、小さな仏像のほか、片方の靴、壊れたテレビのリモコンなどを敷物に置いて売る人々など、変わった風景が見られる。この辺りが今まさに「ドロボウ市場」にふさわしい雰囲気を持つ。

タイ最古の金行「タントガン」の博物館所蔵のタイ旧字タイプライター
タイ最古の金行「タントガン」の博物館にあった昔のタイ字タイプライター。

バンコクの華人は特に中国の広東省潮州県出身者が多いのだが、かの地で普及しているという「たこ糸スパ」も体験できる。たこ糸をよじって肌の産毛などを抜いていく。この糸により肌もマッサージされて代謝がよくなるのだとか。
ヤワラー通りの南側に並行して走る、人がふたりも並んで歩けないほど細い通りは「サンペーンレーン」と呼ばれる。ここは小中学生が喜びそうなファンシーな雑貨のほか、インド風の布など様々なものが安く売られる市場になる。ここは日中のみなので、気温が高くて歩くのはつらいが、女性向けのばらまき用土産を買うにはうってつけだろう。

ヤワラー(ヤワラート)で体験できる「たこ糸スパ」
「たこ糸スパ」はやってみるとちょっと痛いが気持ちいい。

また、ショッピングと言えば「ヤワラー」には「金行」と呼ばれる金製品のショップが無数にある。金行業者協会が定めたレートで売買されるため、タイ人の中には資産運用で利用する人もいる。タイは23金が主流なので、日本人にはやや色合いが好まれないかもしれないが。

ヤワラー(ヤワラート)にある金行
金行の単価はどの店も基本的に同じ。

中国の春節(旧正月)や、11月ごろに行われる菜食週間の時期などは「ヤワラー」中が旗やライトで装飾され、寺院などでは京劇なども見ることができる。普段はタイっぽい町並みであるが、こういった節目には中国らしさが顔を出すのだ。

ヤワラー(ヤワラート)の中華寺院で見かけた劇
ある年の菜食週間の際に中華寺院で見かけた劇の様子。

中華街の定番は「食」のスポット巡り

「ヤワラー」を訪れるべきは夕方から夜にかけてだ。日中は旧市街であることから道路事情が悪く、渋滞が酷い。排気ガスで空気が悪い上に、ご存知のようにタイの気温の高さで辟易することになる。だから、涼しくなり始める夕方以降がいい。特に18時を過ぎてからがちょうどいい時間帯だろう。
夜の「ヤワラー」のおすすめは、なんといっても「食」に尽きる。ここは旧市街の一部でもあるので、100年以上続く飲食店も珍しくない。また、高い店はもちろん、安くておいしい店も少なくない。夜間は特に屋台も増えるため、歩いていて楽しい街になる。

ヤワラー(ヤワラート)では100年以上続く飲食店も珍しくない
タイ式の食堂ではあるが、こんな店でも創業100年超だ。

おすすめの飲食店はいくつかあるが、海鮮であれば「T&K」がいい。緑色のポロシャツを着た店員たちが目印で、屋台席と食堂席がある。どちらも料金は同じで、エビやカニが新鮮でおいしい。

ヤワラー(ヤワラート)の海鮮料理店「T&K」のエビ
「T&K」のエビは身が大きくて味わい深い。

ヤワラー通りから少し裏側に入った「笑笑飯店(イムイム・レストラン)」もいい。潮州の家庭料理で、淡水魚の刺身のほか、揚げた中華麺にハムを載せ、砂糖をまぶして食べる料理など、ほかではなかなか味わえないメニューがある。

ヤワラー通りから少し裏側に入った「笑笑飯店(イムイム・レストラン)」の家庭料理
「笑笑酒楼」はレストラン自体も家庭的な雰囲気がある。

「ヤワラー」で外せないのはフカヒレだ。屋台や食堂タイプの安い店から、高級料理店まで様々あるので、懐具合で店が選べるのがいい。土鍋に入ってくるフカヒレを、ひとりひとつずつ頼むという贅沢は日本ではなかなかできることではないだろう。

高田純次もTV取材で訪れたというフカヒレ食堂
日本のTVで高田純次も来たというフカヒレ食堂で。

通りに目を向ければ、夜間になるとデザート系の屋台も軒を連ねる。中華街なのでやはりツバメの巣は頼んでみたいところだ。中華街を食い倒れてぱんぱんになったお腹に、さっぱりした冷たいデザートで休憩する。なんとも贅沢な観光である。
中華街「ヤワラー」は、残念ながら昔ながらの町並みが徐々に消えつつある。この地域の住民たちは昔ながらを残すよりも、来る未来に懸けている。地下鉄が延長され、これまで足が向かなかった観光客も大量に流れてくると信じており、古い建物を壊し、新しい街を造ろうとしているのだ。昔のままの「ヤワラー」に来たいなら「今」が最後のチャンスである。

ヤワラー(ヤワラート)の夜はデザートの屋台が充実。
夜間はデザートの屋台も充実しているので、食後に立ち寄りたい場所。

【データ】
地図:Googleマップで確認

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